- 血液中の「LDLコレステロール(脂質)」が多い状態が続くと、冠動脈の血管の壁にコレステロールが溜まり、「プラーク」と呼ばれる塊ができます。プラークが大きくなると、血管が硬くなり、血管内が狭くなります。これを動脈硬化と呼びます。
- 動脈硬化が進行すると、急性冠症候群(ACS)のリスクが高まります。
- ACSは心臓の筋肉に血液が届かなくなる病態の総称で、「不安定狭心症」や「急性心筋梗塞」などがその代表です。
- 一度、急性冠症候群(ACS)を発症した人は再発リスクが高くなります。そのためLDLコレステロールの管理目標値や血圧を適切に管理することが大切です。
心臓の血管が詰まるメカニズムとは?
心臓は、全身に血液を送り出すポンプのような役割を果たしています。こうした心臓のはたらきは、「冠動脈」と呼ばれる心臓の血管によって、心臓の筋肉(心筋)に栄養が運ばれることで成り立っています。

心筋に酸素と栄養を供給
高血圧や肥満といった生活習慣病や、高コレステロール血症(脂質異常症の一つ)などによって、血液中の「LDLコレステロール(脂質)」が多い状態が続くと、冠動脈の血管の壁にコレステロールが溜まり、やがて「プラーク」と呼ばれる塊ができます。
プラークが大きくなっていくと、血管が硬くなり、血管の中が狭くなっていきます。これを動脈硬化といいます。やがて、大きくなったプラークが破裂し、そこに血栓が形成されると、血管はさらに狭くなったり、または完全に詰まってしまうことがあります。
動脈硬化の進行と不安定狭心症・急性心筋梗塞が起こる仕組み

正常な冠動脈は血流がスムーズだが、
コレステロールが溜まり、プラークができると血管狭窄が進行
不安定狭心症と急性心筋梗塞の違いってなに?
急性冠症候群(ACS)には、不安定狭心症や急性心筋梗塞が含まれます。
「不安定狭心症」
心筋梗塞の前段階にある状態で、血栓ができて、血管が急激に狭くなり、冠動脈から心筋へ運ばれる血液が少なくなると発症します。

「急性心筋梗塞」
急激に血管内がプラークや血栓などで詰まり、冠動脈内の血流がなくなってしまい、心筋に栄養と酸素が十分に届かず、心筋そのものが壊死をおこした状態です。このため、不安定狭心症より重篤だといえます。

いずれも、生命にかかわる疾患で、病院での迅速な処置が必要です。
ACSでは、急ぎ足や重いものを持つなどの体を動かしているときだけでなく、食事中や安静にしているときにも、胸や胸骨の後部に「胸痛」(締め付けられるような重苦しさなど)を感じます。
診断は問診と各検査で行う
急性冠症候群(ACS)が疑われる場合には、問診と身体所見の確認後、心電図検査、血液検査、画像検査を行って、胸痛を伴うほかの病気との見きわめ(鑑別)を行います。
発症直後は治療をすみやかに開始
急性冠症候群(ACS)を発症したら、すみやかに治療を開始する必要があります。
急性心筋梗塞では、血流を回復させるために、冠動脈の狭くなっているところを広げる手術を行います。
不安定狭心症では、リスクの確認を行ったうえで、冠動脈を拡張させたり、血圧を下げたりする抗狭心症薬によって治療します。さらに、必要に応じて血流を回復させる手術を行います。
入院中は薬物療法と心臓リハビリテーションが中心
急性冠症候群(ACS)が再び起こらないようにすることが大切です。薬物療法としては、血管内に血栓をできにくくする抗血小板薬や、不整脈を抑えたり血圧を下げるための抗狭心症薬、LDLコレステロールを下げるための脂質低下薬などを服用します。
また、動脈硬化を防ぐために、運動療法などの心臓リハビリテーションや禁煙を行います。
退院後は再発予防と生活習慣の改善が大切
動脈硬化を予防して急性冠症候群(ACS)の発症を防ぐことを心がけます。薬物療法は、必要に応じて継続します。
これらの薬物療法に加え、ご自身のLDLコレステロール値や血圧を定期的に確認し、バランスの良い食事、適度な運動習慣を身につけるなど、生活習慣の改善も大切です。
よくあるご質問(FAQ形式)
Q:AMIとACSの違いはなんですか?
A:AMIは、「急性心筋梗塞」の英語名称“Acute Myocardial Infarction”の略語で、血栓によって血管が完全に閉塞してしまうことで、血液が届かなくなった心筋が壊死してしまう疾患のことです。一方、「急性心筋梗塞(AMI)」や「不安定狭心症」のように、動脈硬化によって血栓ができ、心筋に十分に血液が届かなくなる病態を包括して「急性冠症候群(Acute Coronary Syndrome;ACS)」といいます。
Q:急性冠症候群(ACS)は命に関わる可能性もありますか?
A:日本では毎年約10万人が病院の外で突然死するとされており、その最大の原因が急性冠症候群(ACS)だといわれています[1]。とくに急性心筋梗塞では、発症直後に突然死のリスクがあるため、発症後すぐに救急車を要請することが重要です。
急性冠症候群(ACS)診断・治療のための用語解説
【血液検査】
- 心筋の壊死が発生しているか、心筋がどれくらい傷ついているかを知ることができる(心筋は虚血状態が続くと壊死する)。
- 急性心筋梗塞では、血液検査の結果を待たずに、血流を戻す処置を行うことがある。
【画像検査】
- 胸部レントゲン検査や心エコー(超音波)検査、造影CT検査などが含まれる。
- 急性心筋梗塞や、他の心臓の病気(急性大動脈解離や急性肺血栓塞栓症など)、その他の病気との鑑別や重症度の評価を行う。
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日本循環器学会ほか(編). 2017-2018年度活動 急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版).
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日本動脈硬化学会編 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版.
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医療情報科学研究所(編). 病気がみえる vol. 2 循環器 第5版, メディックメディア, 2023.