3つの治療のポイント
進行・悪化を抑えるために、知っておきたいことは?
【治療のポイント1】
早いうちから多発性硬化症(MS) の治療を始め、それを続けることで、多くの患者さんは障害の進行・悪化を抑えることが期待できます。
【治療のポイント2】
MSの疾患活動性が高い場合は、最初の治療から高い有効性が報告されている薬剤を用いて、障害の進行・悪化を抑える治療が考慮されることがあります。
【治療のポイント3】
できる限り「あなたらしい生活」を続けるために、また、「やりたい」と思ったことを実現できるようにするために、主治医との「相談」は重要です。
【治療のポイント1】
早いうちからMSの治療を始め、それを続けることで、多くの患者さんは障害の進行・悪化を抑えることが期待できます。
多発性硬化症(MS)は治療せずに放っておくと、脳の容積が減少(脳萎縮)し、脳萎縮の進行とともに、認知機能障害(集中力・理解力・記憶力の低下など)が現れることも少なくありません。
MSは多くの場合、「再発(症状が出る)」と「寛解(症状が治まる)」を繰り返します。しかし、症状が治まっている寛解期であっても、MSが治ったわけではなく、水面下ではミエリンの障害(脱髄)や神経細胞自体の障害(変性)が持続しているといわれています。
そのため、MSを治療せずに放っておくと、体の機能の障害が徐々に進行してしまうことも少なくありません。
MSによる障害の進行[イメージ図]
障害の進行って、抑えられるの?
MSは多くの場合、「再発(症状が出る)」と「寛解(症状が治まる)」を繰り返します。そのため、再発を抑える治療をせずに放っておくと、体の機能障害が進行・悪化してしまうことも少なくありません。
しかし、“早いうち”からMSの治療を始め、それを継続して行うことで、障害の進行を抑えることが期待できます。今は、そのための薬物治療があります。
再発を抑える治療をしない場合
[イメージ図]
再発を抑える治療を始めた場合
[イメージ図]
早いうちから再発を抑える治療を始めた場合 [イメージ図]
再発寛解型から、再発がなくても体の機能の障害が徐々に進行していく「二次性進行型」(SPMS)に移行したとしても、今度はSPMSに対する治療を早いうちから始め、それを続けることが重要です。
「再発寛解型」および「二次性進行型(SPMS)」については、こちらを参照
【治療のポイント2】
MSの疾患活動性が高い場合は、最初の治療から高い有効性が報告されている薬剤を用いて、障害の進行・悪化を抑える治療が考慮されることがあります。
多発性硬化症(MS)の状況に応じた治療
MSの症状が寛解している時(寛解期):再発予防および進行抑制のための治療[1][2]
MSの治療で最も大切なのは、再発の予防および進行の抑制です[2]。
寛解期は、症状が治まっていても、水面下ではミエリンの障害(脱髄)や神経細胞自体の障害(変性)が持続しているため、治療せずに放っておくと体の機能の障害が徐々に進行してしまいます。このため、「再発や進行を抑えるための治療」が非常に重要です。
この治療には、飲み薬(カプセル、錠剤)や注射剤(ペン型、シリンジなど)、点滴剤を使います。どちらの薬剤がよいかは、患者さんの状態によって異なりますから、投与回数や剤形も含め、主治医の先生と相談しながら決めるとよいでしょう。
寛解期の治療を始める時、長期的な安全性・有効性を考えて、ベースライン薬と呼ばれる薬剤で治療することが多いです。
しかし、早期からMSの疾患活動性が高い時は、最初の治療から高い有効性が報告されているMSの薬剤での治療が考慮されることがあります(early intensive therapyといいます)。
MSの症状が残っている時は、どんな治療をするの?[2]
患者さんによっては、MSの症状が出ている再発期が終わって寛解期になっても、感覚の異常や痛み、脱力、うつなどの症状が、完全には治まらずに残ってしまう場合があります。このような症状を和らげるために、それぞれの症状に応じた薬剤などを使います。
症状が初めて急に出た/再発した時はどんな治療をするの?[1]
MSの症状が急に出た初発時や再発した時を「急性期」と呼びます[2]。
急性期には、ミエリンで起こっている炎症をしずめ、症状を速やかに抑えることが大切です。
急性期には、ステロイド剤を点滴注射する「ステロイドパルス療法」が主に行われます。それでも効果がみられない場合は、「血漿浄化療法」が行われることもあります。
【治療のポイント3】
できる限り「あなたらしい生活」を続けるために、また、「やりたい」と思ったことを実現できるようにするために、主治医との「相談」は重要です。
医師・看護師に相談してもいいの?[2]
MSの治療は長期にわたります。そうなると、医師との関係が大切になります。
お互い人間ですから、ウマが合う、合わないがあるのも事実です。それでも、医師は患者さんのためになる多くの情報を持ち合わせていますし、医師自身も患者さんが必要とする情報を提供して、患者さんと二人三脚で治療を進めていきたいと考えています。
まずは医師に質問をしてみましょう。また、医師に言いだしにくい場合は、話しかけやすい看護師に「相談」するのも方法の1つです。
どんなことを相談したらいいの?[2]
MSの治療で大切なこととは、何でしょうか?
患者さんは、患者である前に「ひとりの人間」でもあります。病気を少し忘れて楽しむことも大切です。
そのために、医師や看護師に「本当はやりたいと思っていること」や「何を実現したいか」などを「相談」してみることもお勧めします。
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日本神経学会 監修『多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023』医学書院 p4, 99-100, 150-152, 156-166, 2023年
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深澤 俊行 編 『やさしい多発性硬化症の自己管理 改訂版』医薬ジャーナル社 p30-31, 35-37, 45, 54, 126 2016年