多発性硬化症(MS)の原因
多発性硬化症(MS)の原因は?
多発性硬化症(MS)の原因はまだ明らかではありませんが、患者さん自身の免疫細胞が神経を攻撃してしまうことが一因ではないかと考えられています[1]。そのため、MSのような病気を「自己免疫疾患」と呼ぶことがあります。
正常時、脳の情報の伝達はスムーズ
通常、脳の情報は、神経細胞を介して、体全体へと伝えられています。神経細胞の一部分が突起のように長く伸び、脳の情報を伝える“電線”のような働きをするのが軸索です。また、軸索は「ミエリン」という“電線のカバー”のようなもので覆われていて、このミエリンがあるおかげで、脳の情報を正常に伝えることができるのです。
MSになるとどうなるの?
MSになると、何らかの原因で、ミエリンが障害(脱髄)され、軸索がむき出しになってしまいます。このように、ミエリンが障害されることを「脱髄」といいます。脱髄が起きた神経では、情報が正常に伝わらなくなるため、様々な症状が現れるようになります。
ミエリンが障害(脱髄)される原因として、本来は体を守る役割を担うリンパ球が誤って自分の細胞を攻撃してしまうことが挙げられます(「自己免疫」といいます)。
ただし、リンパ球が何をきっかけにしてミエリンを障害(脱髄)させるのかは明らかになっていません。
MSに特徴的な症状は?
MSでみられる症状は、ミエリンが障害(脱髄)されている部位によって異なるため、患者さんによって症状は様々です。
比較的よくみられる症状としては、感覚の障害、運動や歩行の障害、視力障害などの眼の障害、めまい、排尿や排便・性機能の障害などがあります。理解力の低下や忘れっぽくなる、ひどく疲れやすいなどの症状が起きることもあります。
また、同じ患者さんでも、毎回同じ症状が出るとは限りません。
MSの初期症状も、神経が障害された箇所から症状が出るため一様ではありませんが、筋力の低下や手足のしびれ/ふるえ、眼の障害のほか、意識障害や「物覚えが悪い」といった認知機能の低下などにも注意が必要です[2]。また、暑いところに長時間いたり、長風呂で体温が高くなったりすると、脱力やしびれが増悪することもあります(ウートフ現象)[2]。
病気が進行すると、歩行障害(歩きにくくなる、杖や車いすなどを使わないと移動できなくなる)や排尿障害(失禁してしまう)などが出ることがあります[1]。
感覚の障害
- 痛みや温度の感覚がにぶくなったり、逆に過敏になる
- しびれ感、ひりひり感などの異常な感覚がある
- 顔や手足に、しびれや痛みが発作的に起こる など
運動や歩行の障害
- 手や足に力が入りにくい
- 体の片側が動きにくい
- ふらついて歩きにくい など
眼の障害
- 霧がかかったようで見えにくい
- 視力が急に低下する
- 眼を動かすと眼の奥が痛い
- 視野の中心に見えない部分ができる など
排尿や排便、性機能の障害
- 尿の回数が頻回になったり、間に合わない
- 尿が出にくくなったり、残尿感がある
- 便秘が続く
- 勃起不全になる など
精神的な症状
- 理解力が低下する
- 忘れっぽくなる
- 気分が妙に高揚したり、逆にうつっぽくなる など
その他
- ひどく疲れやすい
- 発熱、入浴、運動などで体温が上がると、症状が出たり重くなる(ウートフ現象) など
もっと、MSについて聞いてみよう。
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難病情報センターホームページ[多発性硬化症/視神経脊髄炎(指定難病13). 病気の解説]:https://www.nanbyou.or.jp/entry/3806
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岡本智子. 日本医事新報 4927: 56-57, 2018